ねえ、ククール。
 僕が人間じゃないって知って、どう思った?
 確かに半分は人間かも知れない。でも、その半分は人以外のものなんだよ。
 ねえ、どう感じた?
 嫌いになったかな。僕を避けたりするかな。
 聞きたいけど、怖くて聞けないんだ。
 今までの関係を崩したくないし、もし自分が想像したままの答えを君の口から聞いたら、多分僕は――
 ねえ、ククール。どう感じたの?





 『Go home,my sweet lover』





「あいつが……いなくなった?」

 朝起きていきなりヤンガスに言われて、呆然とした。
 でも――心の何処かでそんな予感はしていた。
 多分あいつは近い内に俺の前からいなくなる。
 悲しい結末が俺の前に用意されていた。俺はそれを敢えて見ないようにしていた。そんなもの、急いで見なくてもいずれ俺の前に転がってくるだろうから。
 その“いずれ”が今こうやって俺の前に。

――ちくしょう。

「とにかく兄貴を探すでげすよ! アッシは教会の方に――」
「いや、俺が行く。お前はゼシカと二人で待っていてくれよ」
「何言ってるでがす! ここはアッシが」
「――誰かが残ってないと、もしアイツが帰ってきた時寂しい思いするだろ」

 帰るべき場所は、少しでも多い方が良い。

「頼むよ」

 これ以上あいつを孤独にしないでくれ。





 多分今頃皆怒っているかもしれない。もしかしたらせーせーしたーとか、思っているかもしれない。
 誰も来られないような高台に来るのは楽だ。もう神鳥のたましいが無くたって簡単に空だって飛べる。
 嫌だなあ。こんな風にどんどん人間離れしていくのかなあ。
 君といっしょじゃなくなるのは嫌だよ。
 そんな事を考えていたら、ふいに涙が流れた。

「あれっ、おかしいな、どうして……」

 どうして泣いているんだろう。考えれば考えるほど胸が締め付けられていく。これ以上締まらないんじゃないかって思えるぐらいぎゅーっと、きつくきつく何かに締め付けられていく、僕の心。
 膝を抱えて顔を埋めた。泣き顔を誰かに見られたくなかった。そんな事しなくても誰も来やしないのに。
 人で無くなるのなら心も無くしてくれればいいのに。そうしたらこんなにも辛い気持ちにならないだろう。
 自分から離れていったのに、今は誰かに抱きしめて欲しい。
 辛いよ。胸が痛いよ。
“誰か”じゃ駄目なんだ。
 君じゃなきゃ。
 もう来てくれないかもしれないのに、自分から離れていったのに。
 今はこんなにも君を求めている。
 拒絶されるのが怖くて逃げ出したのに。
 ごめんね、ごめん――

「おい、気が済んだか」

 はっと顔を上げたら、見上げた先にククールがいた。ムスっとした顔で僕を見下ろしている。

「え、どう、やって……」
「家出するヤツがご丁寧に神鳥のたましいなんて置いていくな。
 あと、家出するならもっと分かりやすい所に家出しろよ。どれだけ探したと思ってる」

 探してくれた……の? 僕を?

「……ごめん」
「謝るなら最初から家出なんてするなよ」
「…………ごめん」
「あ〜〜〜〜もう!」

 グシャグシャと髪を掻き毟って、ククールは僕の隣にどかっと座った。何となく顔を見る事が出来ずに、そっぽを向いてしまった。それを見たククールはいきなり僕の頭を掴んで無理矢理自分の方に向けた。

「いたたたた! ちょ、ククー――」
「俺を見ろよ」

 ククールは真剣な顔をして僕を見ていた。その瞳に釘付けになる。
 泣き腫らした顔があらわになっている事も忘れてしまいそうな、深くて甘い眼差し。

「俺がいるのにどっか行ったりするな」

――……僕はただ、頷く事しか出来なかった。





「どうして家出なんてしたんだよ」
「怖くて聞けなかったんだ。ずっと聞きたかったけど、でもやっぱり駄目で……
 ――僕の事、嫌いになったかもって」
「どうして俺がお前の事を嫌いにならなきゃいけないんだ」
「僕が……人間じゃないから」
「アホか」

 一喝された。

「人だとか人じゃないとか、そんなの関係あるかよ。
 お前が人じゃなかったら嫌いにならなきゃならないのか? そうじゃないだろ」
「……好きでいてくれるの?」
「好きって言葉は最後にとっておけよ」

 そう言って、ククールはすっと唇で僕の頬に軽く触れた。
 一瞬何が起きたのか理解出来ずに、何度も目をぱちくりさせてしまった。
 顔が一気に赤くなる。

「クク……!?」
「ほら、帰るぞ」

 ククールは僕の腕を半ば強引に掴んで立ち上がった。恥ずかしくてククールの顔を見られないでいると、片手でクイっと顎を持ち上げられた。

「お前には仲間っていう『家』があるんだ。でもそれはふとした瞬間に無くなってしまうものなんだ。
 だから大切にしろ。本当の家族だって簡単に無くなってしまうんだからな」

「分かったら頷けよ」って言われて、僕は何度も頷いた。ククールは小さく笑って、僕の手を取って歩き出した。

「此処から歩いて帰るの?」
「散歩だよ。散歩」

 暖かい、柔らかな温もりが手に伝わる。
 あんなにも苦しかった胸は、いつの間にか軽々と鼓動していた。
 少し前を歩く、大きな背中。

――僕は、それを見たかったのかもしれない。

「お前は竜なんかじゃないさ」
「……え?」
「地に足を付けて歩くのは人間のする事だからな」

……いろいろおかしいなって思う所はあったけれど、今の僕にはその言葉が嬉しかった。

「ねえ、ククール」
「ん?」
「ありがとう、来てくれて」
「……ありがとうって言葉も最後までとっておけよ、バカ……」

 手に篭る力がほんの少しだけ強くなって、ちらりと見えた顔はほんの少し赤くなっていた。
 嬉しいような、くすぐったいような気持ちになって思わず微笑んだ。
 ごめんね、もう怖がったりしないから。
 ごめんね。ありがとう。
 好きって言葉だけは、最後にとっておくよ。






エイトの中の竜神族の血が目覚めたという捏造
空とか飛べますよね、竜
基本属性は捏造です(わー



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